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〇基発0810第2号平成24年8月10日

  • 執筆者の写真: 筒井
    筒井
  • 6月1日
  • 読了時間: 12分

3 労働契約の内容の変更(法第8条関係)

⑴ 趣旨 当事者の合意により契約が変更されることは、契約の一般原則であり、 労働契約についても当てはまるものであって、法第8条は、この労働契 約の変更についての基本原則である「合意の原則」を確認したものであ ること。

⑵ 内容 ア 法第8条は、「労働者及び使用者」が「合意」するという要件を満た した場合に、「労働契約の内容である労働条件」が「変更」されるという法的効果が生じることを規定したものであること。

イ 法第8条に「合意により」と規定されているとおり、労働契約の内 容である労働条件は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者 の合意のみにより変更されるものであること。

したがって、労働契約 の変更の要件としては、変更内容について書面を交付することまでは 求められないものであること。

労働条件の変更に対する労働者の同意 の有無について、山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19 日第二小法廷判決。最高裁判所民事判例集70巻2号123頁)にお いて、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に 対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労 働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる 不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯 及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容 等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたもの と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点 からも、判断されるべきものと解するのが相当である」と判示されて おり、当該同意の有無については労働者の自由な意思に基づいてされ たものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かとい う観点からも判断されていること。

法第8条の「労働契約の内容である労働条件」には、労働者及び使 用者の合意により労働契約の内容となっていた労働条件のほか、法第 7条本文により就業規則で定める労働条件によるものとされた労働契 約の内容である労働条件、法第10条本文により就業規則の変更によ り変更された労働契約の内容である労働条件及び法第12条により就 業規則で定める基準によることとされた労働条件が含まれるものであり、労働契約の内容である労働条件はすべて含まれるものであること。


4 就業規則の変更による労働契約の内容の変更(法第9条・第10条関係)

⑴ 趣旨

ア 労働契約関係は一定の期間にわたり継続するという特徴を有しており、その継続する期間においては、労働契約の内容が変更される場合が少なくない。

この労働契約の内容である労働条件の変更については、法第8条の 「合意の原則」によることが契約の一般原則であるが、我が国においては、就業規則によって労働条件を統一的に設定し、労働条件の変更も就業規則の変更によることが広く行われており、その際、就業規則の変更により自由に労働条件を変更することができるとの使用者の誤解や、就業規則の変更による労働条件の変更に関する個別労働関係紛争もみられるところである。 このため、法第9条において、法第8条の「合意の原則」を就業規則の変更による労働条件の変更の場面に当てはめ、使用者は就業規則の変更によって一方的に労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないことを確認的に規定した上で、法第10条において、就業規則の変更によって労働契約の内容である労働条件が変更後の就業規則に定めるところによるものとされる場合を明らかにしたものであること。 これらの規定により、就業規則の変更によって生じる法的効果を明らかにし法的安定性を高めるとともに、使用者の合理的な行動を促すことを通じ、労働条件の変更に関する個別労働関係紛争の防止に資するようにすることとしたものであること。

イ これについては、次の裁判例が参考となること(別添)。

○ 労働契約と就業規則との関係について、秋北バス事件最高裁判決

○どのような場合に就業規則の変更が「合理的なものである」と判断されるのかを明らかにしたものとして、大曲市農業協同組合事件最高裁判決(最高裁昭和63年 2月16日第三小法廷判決)

○就業規則の変更が「合理的なものである」か否かを判断するに当たって考慮すべ き7つの要素を明らかにしたものとして、第四銀行事件最高裁判決(最高裁平成9 年2月28日第二小法廷判決)

○ 一部の労働者のみに大きな不利益が生じる就業規則の変更による労働条件の変 更事案について、就業規則の変更の合理性を否定したものとして、みちのく銀行事 件最高裁判決(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)

○就業規則が拘束力を生ずるために周知が必要であるとしたものとして、フジ興産 事件最高裁判決

ウ 法第9条及び第10条は、イの確立した最高裁判所の判例法理に沿って規定したものであり、判例法理に変更を加えるものではないこと。

⑵ 法第9条の内容

ア 法第9条本文は、法第8条の労働契約の変更についての「合意の原則」に従い、使用者が労働者と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないという原則を確認的に規定したものであること。

法第9条ただし書は、法第10条の場合は、法第9条本文に規定する原則の例外であることを規定したものであること。

イ 法第9条の「就業規則」については、2⑵イ(エ)と同様であること。

ウ 法第9条の「労働者の不利益」については、個々の労働者の不利益をいうものであること。 ⑶ 法第10条の内容

ア 法第10条は、「就業規則の変更」という方法によって「労働条件を変更する場合」におて、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させ」たこと及び「就業規則の変更」が「合理的なものである」こ とという要件を満たした場合に、労働契約の変更についての「合意の原則」の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規 定したものであること。

イ 法第10条は、就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されるものであること。 なお、就業規則に定められている事項であっても、労働条件でないものについては、法第10条は適用されないものであること。

ウ 法第10条の「就業規則の変更」には、就業規則の中に現に存在す る条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれるものであること。

エ 法第10条の「就業規則」及び「周知」については、2⑵イ(エ)及び (オ)と同様であること。

オ 法第10条本文の合理性判断の考慮要素 (ア) 法第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は、就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっての考慮要素として例示したものであり、個別具体的な事案に応じて、これらの考慮要素に該当する事実を含め就業規則 の変更に係る諸事情が総合的に考慮され、合理性判断が行われこととなるものであること。

(イ) 法第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度」については、実際に紛争となる事例は、就業規則の変更により個々の労働者に不利益が生じたことに起因するものであり、個々の労働者の不利益の程度をいうものであること。

また、法第10条本文の「変更後の就業規則の内容の相当性」については、就業規則の変更の内容全体の相当性をいうものであり、 変更後の就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものであること。

(ウ) 法第10条本文の「労働条件の変更の必要性」は、使用者にとっての就業規則による労働条件の変更の必要性をいうものであること。

(エ) 法第10条本文の「労働組合等との交渉の状況」は、労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等をい うものであること。

「労働組合等」には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものであること。

(オ) 法第10条本文の「その他の就業規則の変更に係る事情」は、「労 働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就 業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることをいうものであること。

(カ) 法第10条本文の合理性判断の考慮要素と判例法理との関係につ いては、次のとおりであり、同条本文は、判例法理に沿ったもので あること。

○ 就業規則の変更の合理性判断に関する裁判例として、⑴イに掲げた第四銀行 事件最高裁判決においては、

① 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度

② 使用者側の変更の必要性の内容・程度

③ 変更後の就業規則の内容自体の相当性

④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況

⑤ 労働組合等との交渉の経緯

⑥ 他の労働組合又は他の従業員の対応

⑦ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況 という7つの考慮要素が列挙されているが、これらの中には内容的に互いに関連し合うものもあるため、法第10条本文では、関連するものについては統合して列挙しているものであること。

具体的には、第四銀行事件最高裁判決において示された「①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」「②使用者側の変更の必要性の内容・程度」「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」「⑤労働組合等との交渉の経緯」について、法第10条本文ではそれぞれ「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉 の状況」として規定したものであること。

このうち、法第10条の「変更後の就業規則の内容の相当性」には、就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものであり、第四銀行事 件最高裁判決で列挙されている考慮要素である「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」のみならず、「④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」「⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況」も含まれるものであること。

また、これらの考慮要素に含まれない事項についても、「その他の就業規則の変更に係る事情」という文言で包括的に表現されているものであること。 また、法第10条の「労働組合等との交渉の状況」の労働組合等には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものであり、第四銀行事件最高裁判決で列挙されている「⑤労働組合等との交渉の経緯」「⑥他の労働組合又は他の従業員の対応」はこれに該当するものであること。

したがって、法第10条の規定は判例法理に沿った内容であり、判例法理に変更を加えるものではないこと。

○ ⑴イに掲げた大曲市農業協同組合事件最高裁判決においては、「特に、賃金、 退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼ す就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」 と判示されており、法第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではないこと。

○ ⑴イに掲げたみちのく銀行事件最高裁判決においては、2⑵ア(イ)に掲げた秋 北バス事件最高裁判決、大曲市農業協同組合事件最高裁判決及び第四銀行事件最高裁判決の判旨を引用した上で、「本件における賃金体系の変更は、短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなるのである。就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益 性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきで あり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、 相当性がないものというほかはない。」と判示され、また、「本件では、行員の約 73%を組織する労組が本件第一次変更及び本件第二次変更に同意している。

しかし、Xらの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。」と判示されており、法第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではないこと。

カ 就業規則の変更が法第10条本文の「合理的」なものであるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、従来どおり、使用者側が負うものであること。

キ 法第10条本文の「当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という法的効果が生じるのは、同条本文の要件を満たした時点であり、通常は、就業規則の変更が合理的なものであることを前提に、 使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたことが客観的に認められる時点であること。

ク 法第10条ただし書の「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として合意していた部分については、同条ただし書により、 法第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものであること。

ケ なお、法第7条ただし書の「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、将来的な労働条件について

① 就業規則の変更により変更することを許容するもの

② 就業規則の変更ではなく個別の合意により変更することとするもののいずれもがあり得るものであり、

①の場合には法第10条本文が適用され、②の場合には同条ただし書が適用されるものであること。

 
 

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