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労災保険|給付基礎日額・スライド・限度額

  • 執筆者の写真: 筒井
    筒井
  • 11月21日
  • 読了時間: 7分

ここでは労災保険|給付基礎日額・スライド・限度額についてお伝えします。



【給付基礎日額の総まとめ】


<概要>

給付基礎日額とは、労災保険の休業補償給付や障害補償給付など、主要給付の額を計算するときの基礎となる日額のこと。


<原則>

給付基礎日額=平均賃金と同額

平均賃金の計算方法(労基法12条)に従い算定する。

端数は1円未満切り上げ。


<算定事由発生日>

負傷・疾病・障害・死亡の原因となる事故が発生した日、

または診断によって疾病の発生が確定した日を「算定事由発生日」とする。


<平均賃金が適切でない場合の取扱い>

労働基準法12条の平均賃金を用いることが適当でないと認められる場合には、

厚生労働省令で定めるところにより、都道府県労働基準監督署長が算定する額

給付基礎日額とする。



【特例1:私傷病休業等の特例(則9-1)】


<内容>

平均賃金の算定期間中に、業務外の傷病・妊娠出産・親族の看護等で休業した期間がある場合、

その期間の日数と賃金を算定基礎から除外する。


<理由>

休業で賃金が落ちて平均賃金が不当に低くなるのを防ぐため。


【特例2:じん肺審査等の特例(則9-12)】


<内容>

じん肺・アスベスト等により賃金が低下した場合、実態に合わせて平均賃金を補正し、最低保証を行う。



【船員の給付基礎日額(総合特例)】


<趣旨>

船員は、航海区域・積荷・船種などの事情により賃金が大きく変動することが多く、

通常の平均賃金(労基法12条)では適正に給付基礎日額を算定できない場合がある。

そのため、船員には2種類の特例が設けられている。


<特例1:固定給+変動給がある場合の特例(則9-1③)>

固定給のほか、航海区域・積荷などにより変動する賃金がある場合は、

以下の2つを基準とし、厚生労働省労働基準局長が定める基準により算定する。


1 基本となるべき固定給に係る平均賃金に相当する額

2 変動する賃金に係る平均賃金に相当する額


この両方を考慮して給付基礎日額を算定する。


<ポイント>

固定給と変動給を組み合わせて算定する特例で、

航海内容による賃金変動が激しい船員向けの救済措置。


<特例2:前1年間の賃金を使う特例(則9-14)>

船員の賃金が季節・航路・積荷の種類などの影響で、

算定事由発生日前3か月の賃金が実態に合わない場合には、

算定事由発生日前1年間の賃金を基礎として給付基礎日額を算定できる。


<適用場面>

繁忙期と閑散期で賃金が極端に違う、

航路変更などで直近3か月の賃金が異常に高い/低い、

積荷の種類によって賃金が激しく上下する場合など。


<ポイント>

通常の“直前3か月賃金”では逆に不公平になる場合のための特例。


<まとめ>

船員の特例は次の2つ。

固定給+変動給に対する特例(則9-1③)

大きな賃金変動に対応するための前1年の賃金を基礎とする特例(則9-14)


いずれも船員特有の賃金変動を反映し、適正に給付基礎日額を算定するための特別な規定。


<根拠>

法8-Ⅱ、則9-1③、則9-14



【特例4:自動変更対象額(最低保障額)】


<内容>

平均賃金相当額が自動変更対象額(4020円)に満たない場合、

給付基礎日額は4020円として扱う。


<8月1日以降の改定>

自動変更対象額は、

毎年度の平均給与額の動向に応じて、

厚生労働大臣がその年度の8月1日以降に変更することができる。


変更された場合、翌年度の7月31日までは、その新しい額が自動変更対象額として適用される。


<ポイント>

・毎年「8月1日」から自動変更対象額が変わる可能性がある

・変更の基礎は「前年度の平均給与額」

・労働者の最低保障を保つための仕組み



【特例5:複数業務労働者の給付基礎日額(法8-11)】


<内容>

2つ以上の業務に従事していた労働者が被災した場合、

複数の業務ごとの賃金を合算して給付基礎日額とする。



【スライド改定(給付基礎日額・休業給付・年金給付)】


<概要>

賃金水準の変動に合わせて、給付の基礎となる日額を改定する仕組み。


<実施タイミング>

毎年8月1日に前年度の平均給与額の変動率を反映して改定される。



【休業給付基礎日額のスライド】


<要件>

算定事由発生日の属する四半期の平均給与額が、

その前の四半期の平均給与額と比較して


・100分の110を超える

・または 100分の90を下回る


場合にスライド改定が行われる。


<適用開始>

変動が生じた四半期の

翌々四半期」の初日以後に支給すべき休業(補償)給付から

改定後の給付基礎日額が適用される。


<注意:よくある誤解>

適用時期は「療養開始から1年6か月経過後」ではない。

1年6か月ルールは “休業補償の限度額” の話であり、

スライド改定とは無関係。


【年金給付基礎日額のスライド】


<適用時期>

スライド改定された額は、

算定事由発生日の属する年度の翌々年度8月以降に支給する年金に適用される。


(例:令和7年度に算定事由が発生 → 令和9年8月以降支給の年金へ反映)


<方法>

前年度(9月〜翌年8月)の平均給与額の変動率を反映する

完全自動賃金スライド方式。


<毎年度行われること>

年金給付基礎日額のスライド改定は、

平均給与額の変動の大小にかかわらず、

毎年度必ず実施される。


<一時金への適用>

障害(補償)一時金・遺族(補償)一時金の額のスライドは、

年金給付基礎日額の改定額に準じて行われる。


(=一時金も年金と同じスライド率で改定される)


<一時金スライドの適用時期>

一時金に適用されるスライド改定も、

年金スライドと同じく毎年度8月1日から適用される。


(=一時金スライドは年金スライドと完全連動して毎年行われる)



【年齢階層別の最低限度額・最高限度額】


<趣旨>

若年層の低賃金を救済し、逆に年配層で高すぎる算定を防止するための調整。


<内容>

給付基礎日額は、その時点の年齢階層ごとに

最低限度額〜最高限度額の範囲に収めるよう調整される。


<階層区分の仕組み>

年齢階層別の最低限度額・最高限度額は、

年齢を12の階層に区分し、

賃金月額を20の階層に区分したうえで一定の方法により算定されている(法8の2-Ⅲ)。


<休業補償給付での適用>

療養開始の日から1年6か月を経過した後の休業補償給付について

年齢階層別の最低・最高限度額が適用される。


<年金給付での適用>

年金給付基礎日額については、

毎年8月1日時点の年齢を「その年の年齢」として扱い、

その1年間に支給される年金に同じ年齢階層の最低・最高限度額を適用する。


(例:8月1日時点で69歳 → その年の1年間は「69歳」の区分を適用

翌年8月1日に70歳になれば、翌年度からは「70歳以上」の区分で適用)


<年齢階層の例>

20歳未満:5213円〜13314円

70歳以上:4020円〜13314円



【休業給付基礎日額の限度額の適用】


<開始時期>

業務開始の日から1年6ヶ月を経過した日の翌日以降の休業に適用。


<内容>

その時点の年齢区分に対応する最低限度額・最高限度額を使用。


【年金給付基礎日額の限度額】


<内容>

年金給付にも同様に年齢階層ごとの限度額を適用。

遺族給付の場合は、死亡時の労働者の年齢で判定する。



【じん肺・粉じん作業従事者の給付基礎日額の最低保障(法8-Ⅱ、則9-1②)】


<趣旨>

粉じん作業(じん肺など)から粉じん以外の作業へ常時転換した労働者は、

賃金が大きく低下することがあるため、

給付基礎日額が不当に低くならないよう最低保障を行う。


<内容>

粉じん作業以外の作業に常時従事することになった労働者について、

算定事由発生日における平均賃金額が、従前額に満たない場合には、

原則として従前額を給付基礎日額として最低保障する


<適用例>

・粉じん作業経験者が別作業に配置転換され賃金が低下

・振動障害による労働者についても同様に適用される


<ポイント>

・労基法12条の平均賃金よりも低くなったときに使う “特別の最低保障”

・一般の自動変更対象額(4020円)とは別の仕組み

・じん肺や振動障害など、粉じん作業特有の救済制度




この記事では労災保険|給付基礎日額・スライド・限度額についてご紹介しました。

次回に続きます!










 


 
 

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